「僕だけがいない街 Re」【藤沼佐知子】 外伝 感想


僕だけがいない街 Re』第四話を読みました。

今回は悟の母親【藤沼佐知子】が主人公になっており、「僕街」本編で悟がリバイバルによって過去に戻り、雛月を毒母の暴力から守ろうとしていた辺りの場面を、佐知子の視点から語りなおす内容になっていました。

本編と同じシーンが佐知子視点で語りなおされているので、内容的には本編の繰り返しになっている場面も多いのですが・・・、同じ場面を違う角度から映し出すことで、物語上の主題をより重層的・補完的に描くための追加エピソードになっているのだと思います。



「僕街」本編では、洞察力が鋭く強くて賢い理想の母親像といったイメージの佐知子さんでしたが。
今回のエピソードでは、悟の思考を読み取って手玉に取りちょっとワルそうな表情(かお)をのぞかせるなど、少し意外性のある内面にもスポットが当てられていました。
(こういう女性的な鋭さって、男はあまり気が付かないだけで、女性は母でも誰でもそれぞれ本能的に備わっているものなんでしょうかね)。



また、悟が雛月を毒母の虐待から守ろうとしていたのと同じように、かつて佐知子も父親からDVを受けている友達を守ろうとしていた過去エピソードも出てきました。

友達の親父の暴力を止めるため佐知子が考えたのが、紙に脅迫文を書いて石と一緒に放り投げガラスをぶち割る方法でした(警察を介入させるため)。

これって「僕街」本編で悟がユウキさんの家に石を投げていたのとそっくりでしたね。
あんまり性格が似てなさそうな母と息子ですが、同じ行動をとっているあたりやはり親子なんだなという感じでしょうかね。

観察力が鋭く知性的なイメージだった佐知子さんでしたが、意外にも昔は短絡的で正義感の強い熱血少女だったんですね。

そういえば、「僕街」本編でも中学・高校の頃、痴漢と下着泥棒を竹刀でぶちのめして捕まえたエピソードがちらっと出てきていましたね(悟に”そんな猛者だったのか”っていわれてましたけど)。

 

 

今回は母親の佐知子さんによって悟の幼児期の心の傷についても語られていました。
まだオムツもとれていない頃、両親が離婚して悟は父親を失いました。
車で去っていく姿しか映っていないので、その父親がどんな人間だったのか(どんな事情で離婚したのか)分かりませんが、悟にとっては「大切なものを失った(=大切な人に捨てられた)」経験となりその後の人格形成に大きな影響を及ぼしたようです。

幼少期のトラウマの影響で、どこか「他人、物や動物に対する執着が薄い」少年になっていた悟でしたが・・・
ある日雨でずぶぬれになった生後間もない子犬を抱いて帰って来た時のエピソードが語られていました。

捨てられていた子犬を拾ってくる優しさを持っている悟ではあるのですが、拾ってきた次の日には子犬への興味をなくし世話を佐知子さんに任せ、自分で始めた事なのにやりかけの中途半端なところでほったらかしの状態に。
そうしているうちに子犬は3日ほどで病気で衰弱して死んでしまいました。

本気で向かって行って失う怖さ・・・。必死に追いかけて届かなかったという想い。
その怖さから自分の心を守るために悟は「踏み込めない」少年になっていました。

他人に対する興味が薄かったのも、失うことへの恐れ、傷つくことへの防衛機制だったということでしょうかね。
内向的な気質+幼少期のトラウマというのも、こじらせてしまうとなかなか克服するのが難しいでしょうからね・・・。
まあ、程度の差はあれ傷つくのが怖い人って結構いると思いますけどね。
(内向的で遠慮がちな人ってわりとそういう傾向があるような)。

それでも、子犬が死んでしまった出来事も成長するためのきっかけになったようで、悟もだんだん変わろうと努力をはじめ、少しづつ前に踏み出し始めたようです。
(変わり始めたのですが、雛月たちが殺された連続誘拐殺人事件の影響で、またつまづいて踏み込めなくなってしまうようですが・・・)

生きづらさを抱えている人間にとって、何が根本原因になっているのか、それをどうすれば乗り越えることができるのか、自力で克服するのもなかなか難しいことだと思いますね・・・。(性格とか気質ってそう簡単に変えられるものでもないですからね)。


この捨てられていた子犬というのは父に捨てられた幼い悟自身であり、母に虐待を受けひとりぼっちだった雛月でもあったということなんでしょうかね。
物語的な流れから考えると、この死なせてしまった子犬に対する思いを忘れなかったことが、雛月を救い自分も救われる結末に繋がっていったのかな、と思いました。(他にもいろいろ要因はあるんでしょうけど)。

 


***

 

 

いよいよ次回で外伝も最終回とのこと。
最後のエピソードはどうなるのか、どのキャラがメインになって、どんな締め方になるのか?
終わってしまうのは寂しいですが、最終回がどうなるのかそれ以上に楽しみです。

 

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「ダンジョン飯」 1~3巻 感想

ちょっと前に「ダンジョン飯」3巻を読みました。
ついでに1巻、2巻も読み返したので、
3巻までで自分が面白いと思った点などについて感想を書いてみようと思います。


作品概要
登場人物が、古典的ファンタジー作品に登場する様々なモンスターを現実に存在する調理方法によって料理しながらダンジョンを踏破していくという、アドベンチャーとグルメを混交させた作風の、グルメ・ファンタジー漫画。スライムやマンドラゴラ、バジリスクやゴーレムといった、ファンタジー作品では定番のモンスターの生態を改めて論理的に考察し、それに基づき「いかに調理すれば美味に食べられるか」を主眼に置いている。作中で実際に作られた料理にはレシピが記載され、そのことによってファンタジーでありながらリアリティー、説得力を生じさせている。(ダンジョン飯-Wikipediaより

 

ダンジョン探索型ファンタジーというと、日本でもゲームやマンガなどでお馴染みの舞台設定・シチュエーションですよね。

ダンジョン&ドラゴンズ」とか「ウイザードリィ」辺りが源流になっているみたいですけど、大体の人は子供の頃からドラクエなどのファンタジー系RPGで遊んできたと思うので、中世ヨーロッパ風ファンタジーの世界観とか説明不要ですんなり入り込めますね。

ダンジョン探索とかある意味手垢がついた題材というか、設定などかなりテンプレ化(お約束化)されているので、題材としての新鮮さは無いんじゃないかと思うのですが、 
そこにモンスターを調理(自給自足のサバイバル生活)する要素を加えたことで、独自の面白さが生まれています。

モンスターを料理するというアイデアだけなら出オチ・ワンパターン化しかねないと思うのですが、毎回手を変え品を変え「その発想はなっかった」というような、アイデアのバリエーションの豊富さ・作者の発想の面白さがこの作品の魅力になっています。 

自分の場合ゴーレムに野菜を植えて栽培しているネタがツボにはまりました(笑)。
モンスターの生態や調理方法が妙に現実的で説得力があり、作者の職人的な芸の細かさに感心させられました。

 

登場人物

ライオス 

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 主人公のライオスは、戦士としてはかなりの実力者なのですが腕っぷしが強いだけではなく、「魔物(モンスター)大好き人間」でもあり、好奇心・探究心の塊のような人間なところが面白いです。

一応「ダンジョン攻略」が目的で冒険者をやっているようなのですが、いつの間にかダンジョンに生息しているモンスターに魅了されるようになり、生態など独自に観察したり調べたりしていたようです。

モンスターの生態に興味を持つ所などは生物学者っぽい素質がありそうですが、面白いのは、モンスターが好きになるうちモンスターの「味も知りたくなった」というところでしょうかね。

未知の世界・未知の生物と出会ったとき、探究心を刺激されるのは、人間の生まれ持った性質なんでしょうか。
ライオスは変人レベルで探究心の強い人間のようですが、その探求心が特に「食欲」に特化されているようです。
正体不明の生物を食べるってなかなかハードルが高いよな、と自分などは思ってしまうのですが、ネットを見ていると、世の中色んな人がいるもので、「何でも食ってやろう」みたいなチャレンジャーが結構いるようです。
(「〇〇 料理」などのワードで検索すると色んなのがヒットしますね)。

「それを食べるのか・・・!」という意外性や驚きがあってわくわくしますね。
(どんな味なんだろうと想像して自分も食べてみたくなる)。
3巻ではクラーケン(巨大イカ)の寄生虫を生で食べて食中毒で苦しんでいましたが、あまり懲りてなさそうなところが「冒険野郎」という感じで面白いですね。

 

 

マルシル

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この作品は「料理ネタ」や「ファンタジーネタ」の面白さが見どころなのですが、もうひとつ見どころなのが「マルシルのリアクション」ではないかと思います。
変顔で笑わせるみたいな場面はそれほど多くはないのですが、表情のバリエーションが非常に多くて、表情が一コマずつころころ変わるので、マルシルの表情の変化を追うだけでも結構楽しい作品になってますね。
表情が多彩と言ってもあざとい感じがせず、これも作者の職人的な芸の細かさによるものではないかと思いました。

3巻ではライオスの妹ファリンと魔術師学校で一緒だったエピソードも登場。
魔力は強力ですが、どんくさくポンコツエルフかと思いきや、「学校始まって以来の才女」と言われるほど優等生だったとのこと。
学校では人工的にダンジョンを作る研究をしていましたが、本を読んで得た知識ばかりの優等生タイプだったのであまりうまくいっていなかった様子。
どうやらダンジョン冒険のパーティーに参加しているのは、自分の人工ダンジョン研究のため? なんでしょうかね。
3巻で「ダンジョン誕生の謎」みたいなテーマが出てきましたが、その方向でさらに話が展開することもあるんでしょうかね。

 

 

センシ

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「センシ」とはドワーフの言葉で「探究者」という意味とのこと。ライオスに先駆けて10年前からダンジョンに住み着き、自給自足のサバイバル生活を送ってきたようです(モンスター料理の達人)。
モンスター料理初心者のライオスにとっては、先輩・師匠のような存在になるわけですかね。
料理はセンシ担当なので、センシがモンスターをいかに美味しそうに調理するのか、というのがこの作品の肝になっているんでしょうかね。

綺麗好きで育ちがよさそうなマルシルと対比の関係になっているのも面白いところかなと思いました。
ドワーフとエルフの馬が合わないのはファンタジーのお約束ネタ?)。

マルシルの魔術は便利ですが、錬金術の研究から化学が発展したように、「魔術」=「科学・技術」みたいなものなんでしょうか。
自分自身も食物連鎖の一部として自然と共に生きる主義のセンシですが、どうやらこのダンジョン自体が魔術師によって人工的に作られたもののようだし、「自然」対「魔術(テクノロジー)」のようなテーマも出てくるんでしょうかね。

 

 

ファリン

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ライオスの妹。僧侶系の魔法の使い手としてはかなりの才能の持ち主のようです。
ライオスたちを助けるために自分だけドラゴンに食べられてしまいました。
作中ではずっとドラゴンの腹の中で消化中のため割と出番が少ないですね。
食べられてから1か月以内なら復活の可能性があるようなのですが、果たして間に合うのか?
3巻の終わりでは、ドラゴンの生息する近くにたどり着いていましたが、4巻で無事復活できるんでしょうかね。

3巻では、回想シーンで魔術学校にいた頃からマルシルと友達だったエピソードが出てきていました。

外で遊んでいるうちにダンジョンの生態系(魔術の循環)の仕組みに気付くなど、ぼんやりしているようで鋭い観察力の持ち主のようです。
研究室の秀才タイプだったマルシルがポンコツながらダンジョン探索に挑んでいるのもファリンとの出会いがきっかけになっているみたいですね。

 

 

チルチャック

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罠解除・鍵開けなど、盗賊スキルのエキスパート。
ハーフフットって何かと思ったらホビットと同じ種族のことのようですね。

見た目は中学生ぐらいに見えますが、実は29歳の大人だった。
ライオスやセンシのような変人でもないし、マルシルのようなどんくさいポンコツでもないので割と地味な存在ですかね。(ドライな物言いの弟的ポジション)。

プロフェッショナルな冒険者として、前金をもらっているのでファリン救出に付き合うなど義理堅い性格。

 

 

ダンジョンとは何なのか

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3巻の終わりではドラゴンの近くに到着していましたので、4巻でファリンを救出してそろそろ完結? なのかなと思うのですが、そのあとまだ話が続くのか気になりますね。

3巻でマルシルがダンジョンを人工的に作る研究をしていたという話が出てきたし、そもそもダンジョンとは何なんだということもちょっと気になってきました。
(まあ「料理ネタ」「ファンタジーネタ」だけで面白い作品なので無理に話の風呂敷を広げる必要はないかなとは思いますけど)。

ダンジョンを作ったのは「狂乱の魔術師」とのことで、ファリンを食べたドラゴンを倒したら終わりなのか、それとも「狂乱の魔術師」との対決もあるのか? 気になるところですね。(2巻の「生ける絵画」に出てきたダークエルフがもしかすると「狂乱の魔術師」なのかな? と思ったんですが、再登場するのかどうか)。

1000年前の王国は平和そうでしたが、なぜ狂乱の魔術師はダンジョンを作ったのか。(地下空間に城と城下町が埋まっている状態?)
ダンジョンの全体像がどうなっているのかとかモンスターがどこから出てきたのかなど、不明な点も結構ありますね。


***


「ファンタジー+料理」ネタが絶妙で楽しい作品で、ダンジョンの謎とか気になる展開もありましたので、4巻も楽しみです(4巻発売はまだだいぶ先ですけど)。