マンガ 「こども・おとな」 感想 (福島鉄平作品)

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内容紹介

あの時、君のそばにいた人を。君を見つめていた人を。どれだけ、思い出せますか? 懐かしい時代、ありふれた田舎の町の少年と彼を見守る大人たちの物語。不安と安堵の狭間を描く憧憬ヒューマンストーリー。

 

先日福島鉄平先生の新刊『こども・おとな』を読みました。
短編集2冊(『アマリリス』『スイミング』)も『サムライうさぎ』も好きだったので、本屋で見かけて即買いしました。 

 

あの時のままのあなたに、
あの時のままのぼくで、
もう一度会いたい。 
(帯文より)

 

作者の巻末のあとがきによると、今回の作品は「虚実折り混ぜ、昔の思い出をまとめたような作品」とのこと。
主人公は小学一年生の男の子(サトル)なのですが、何か起きそうで何も起こらない、ごくありふれた日常エピソード(思い出)が重ねられていく作品になっています。

自伝的(私小説的)要素のある作品なのかな? と思うのですが、描かれているのがごくありふれた(誰しも覚えがあるような)日常的なエピソードの連なりなので、作者の個人的な思い出というより、誰もが共感できるような普遍的な「幼少期の思い出」が描かれている作品になっていると思います。

特に大きな事件やドラマチックな展開があるわけではないので、地味な印象もあるのですがじわじわ沁みてくるような面白さがあります。
主人公の家庭環境とか家族構成とか自分と似ているわけではないのですが、読んでいるうちに「なんかこんなことあったな」「そういえばこんな子がいたな」というような、懐かしい空気に包まれていくような感覚がありました。

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絵柄(人物や背景)が淡くぼやけた感じで描かれているのですが、これは幼少期のおぼろげな記憶の世界をイメージさせるためにあえて「薄い」タッチで描いているんでしょうかね。(少し色あせた写真のような印象)。

「昭和あるあるネタ」みたいなのもあまりなく、あくまでも子供を中心に見た世界の空気感を大切にしている作品なのかなと思いました。
父親とバイクに乗って出かけたエピソードで父も息子もノーヘルだったのが驚きだったのですが・・・(昭和だったからなのか田舎だからなのかよく分かりませんけど)。


福島鉄平先生の作品の魅力として、その場その瞬間を切り取ったような臨場感・空気感のある描写が素晴らしいです。
特に大きな事件が起きたわけでもない日常的なシーンでも、その場その瞬間の空気がそのまま伝わってくるような描写が印象に残るので、後からじわじわ沁みてくるような独特な雰囲気があります。

内容的には地味な作品だと思うのですが、独特な絵柄と独特な空気感が何とも言えない魅力があります。

キャリアの長さの割りには作品数が少なくてなんだか寂しいのですが・・・今後もずっと活動を追い続けたい作家さんですね。
(ちなみに私は短編集『スイミング』に収録されている『月・水・金はスイミング』や『反省してカメダくん』とかすごく好きです)。