「僕だけがいない街 Re」【雛月加代】 外伝 感想

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ヤングエースで今月から始まった『僕だけがいない街 Re』第一話を読みました。

『僕街』本編の後半、出番が減って存在感がしぼんでしまった「雛月加代」が番外編でJCになって帰ってきましたね。 
外伝スタートのネット記事で、中学生になった雛月が「バカなの?」言い放っている画像を見て、正直シビれたのですが・・・。


今回の外伝第一話の主人公は、「リバイバル」によって過去に戻った悟に救われた女の子【雛月加代】でした。

今回のエピソードでは、悟が昏睡状態になった後、雛月が悟の病室に通い続け、悟と悟の母と過ごしていた時間、 
悟との別れ、そして雛月に訪れた新たな旅立ちの瞬間が描かれていました。


『僕街』本編は全8巻できれいに完結していましたが、悟が昏睡状態になってから目覚めるまでの15年間が、途中経過をほとんど描かず一気に時間が飛んでしまったので、悟が眠っていた間、雛月たちに何があったんだ? と気になっていたのですけど、今回のエピソードはその空白の一部を埋めるような内容になっていました。

読者としては、『僕街』本編で大人になって悟と再会した雛月がヒロミと結婚して「母親」となり、幸せな未来にたどり着いた結末を見れて嬉しかったのですが・・・ 

その反面、 何だか再会シーンが意外にあっさりしているというか・・・、雛月にとって悟はそれほど大事な存在でもなかったのかな? と、ちょっと寂しいような印象もありました。
(なにしろ悟は事件を防ぐために15年意識不明の重体になるという非常に大きな代償を払っていましたからね)。

悟が昏睡状態になり、眠ってしまってから雛月はどんな時間を過ごしていたのか? 

時間が一気に飛ぶ展開は意外性があってすごく面白かったんですが、その空白期間の過程が描かれていなかったのでかなりモヤモヤ感が残っていました。 (本編後半では、雛月はその他大勢の登場人物の中の一人みたいな扱いになって、出番が減ってしまいましたからね)。

今回のエピソードでは本編では描かれていなかった、「悟が眠ってしまった後の雛月」の姿が描かれており、雛月の存在が気になる読者のもやもや感が少し晴れるようなエピソードになっていました。

内容的には本編連載中に外伝として入れても良かったのでは? と少し思いましたが、雛月の存在感が大きくなりすぎても本編の流れの中で消化不良を起こしてしまいそうだし、やはりこのような形で、本編完結後に外伝という形で雛月のエピソードを挿入するのがベストだったんでしょうね。

 

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 15年後の再会のシーンでは、いささかあっさりした印象を受けたのですが、今回のエピソードを読むと雛月にとって悟は非常に大事な存在であることが分かりましたね。


学校が終わると毎日必ず悟と悟母のいる病室に通い続けていた雛月。 
意識不明で眠り続ける悟に話しかけたり悟母の介護の手伝いなどをして過ごしていました。

悟母のことを自然に「お母さん」と呼び、悟の病室に入るときには「ただいま」と言っているので、悟が眠ってしまってから雛月は悟や悟母のことを「家族」のように想うようになっていたようです。

雛月にとっては、悟だけでなく悟母の存在も非常に大事なものになっているみたいですね。 

 

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 小学校を卒業して、中学生になっても相変わらず、毎日学校が終わった後の時間を悟の病室で過ごしていた雛月。


「加代ちゃんは部活とかやらないの?」と、雛月を心配して尋ねる悟母でしたが・・・。 
部活のことなど眼中にない雛月は悟の病室に通い続けていました。


今回の外伝の冒頭で、雛月は「中学生になったんだからスポーツも恋も楽しんでみない?」「みんな仲良しで楽しいよ!」という感じで部活の勧誘を受けたのですが、 
「バカなの?」の一言で、部活の誘いを一蹴していました。

初めに読んだときは、冒頭の掴みでいきなり「バカなの?」を見開きでかましてきた展開にシビれて、ぐっとテンションが上がったんですが、読み終えてもう一度読み返してみると、少し印象が変わりましたね。

雛月にとっては、自分を救ってくれた悟(ヒーロー)の側にいることが全てになっていて、同じ年頃の女の子が夢中になるようなこと(部活とか恋とか)など、何の興味も持てないどうでもいいことになっているようです。

悟によって救い出された雛月は、悟の「踏み込んで行く」姿に影響を受けてケンヤなど仲間も増え、 
仲が悪かった美里にも自分から話しかけるようになるなど、成長しつつあったのですが・・・

毒母から解放された後、新たな一歩を踏み出し始めた雛月でしたが、今度は悟が意識不明の重体になってしまったことで、またつまづいて、前に踏み出すことができなくなってしまったみたいですね。 
(悟を置いてけぼりにするようで、「前に踏み出す」ことができなくなったようです)。

悟の病室に通うことが生活の全てのようになって、自分のことも他人のことも眼中になくなり、部活の誘いにも無表情で「バカなの?」いう女の子に戻ってしまいました。

 

 

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 献身的に悟の病室に通い続ける雛月でしたが・・・、これは「献身」という名の「依存」なんでしょうか。


ある日、ケンヤも雛月に「ヒナ、前に進むんだ」と新たな一歩を踏み出すように促すのですが・・・ 
雛月にはケンヤの言葉も届かないようで、どこかうわの空のような不思議そうな顔をしていますね。

 

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 そして、いつものように放課後悟の病室に「ただいま」と言いながら入った雛月でしたが・・・


ベッドは空になっており、そこにはもう悟も悟母の姿もありませんでした。

 

 

足りない何かを埋めるのが人生

 

ちなみに、真犯人である八代は今回のエピソードにもしれっと登場し、
雛月が小学校を卒業する時にも、「足りない何かを埋めていくのが人生だと僕は考える」という例のスピーチをしていました。

元の時間軸では、雛月たちが殺された後、悟はこの八代の言葉に大きな影響を受けていましたが、 
今回は、悟を失った雛月がこのスピーチを聞いて、八代の言葉に影響を受けたようです。

八代にとっては、心の穴を埋めるための代償行為は「犯罪(殺人)」でした。 
悟の場合は、「リバイバル」で、過去に戻り事件を防ぐことで、心の穴を埋めることができました。

雛月にとって、心に空いた穴を埋めるために何が必要なのか?

悟母やケンヤが心配するくらい、毎日欠かさず悟の病室に通い続けた雛月の行為は、心の穴を埋めようとする「代償行為」だったんでしょうか。

学校で友達を作ったり、仲間と過ごすことにも興味を示さず、ひたすら悟の病室で過ごす時間を優先する雛月。

元々一途というか一本気な性質なんでしょうけど・・・ 
悟母はこのままでは雛月がダメになると判断したようです。

毒母に育てられて「家族」がいなかった雛月にとって、悟・悟母を「家族」のように想っていた時間は非常に大切なものだったのかもしれませんが、それはいつか終わらせなくてはならない時間だったのでしょうかね。

眠り続ける悟のそばにいる限り雛月は「悟を置きざりにして、自分だけ前へは進めない」と、思い続けることになってしまうようです。 
雛月を解放して、「未来へ踏み出させる」ためには、かなり強引なやり方ではありますが、強制的に雛月から悟を引き離すしかない・・・、ということなんでしょうかね。

悟母は手紙の中で雛月に対して「次の一歩を踏み出す時」が来ているのだと思う、と告げていました。

この「前に踏み出す」という言葉もこの作品の重要なテーマになっているみたいですね。

29歳の悟は自分の心に「踏み込めない」うだつの上がらない人間になっていましたが、 
リバイバルで過去に戻り、雛月や事件に「踏み込み続ける」ことで皆の「ヒーロー」になりました。

ここで、悟母やケンヤが雛月に「前に踏み出す」ことを促しているのも、そんな「踏み込み続けた」悟の姿があったからなんでしょうかね。

雛月も悟との別れを受け入れ(大泣きしていましたが)、未来に向けて再び「踏み出し始めた」のも、ヒーローである悟の姿を見ていたからなんでしょうね。 

 

「大人」になった雛月加代

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「悟と過ごした時間があったから、あたしは幸せになれた」と、
長い眠りから目覚めた悟と、ようやく再会できた時、雛月は悟に言いました。

『僕街』本編6巻の再会シーンを読んだときは、雛月が言っていた「悟と過ごした時間」というのは、悟が事件を防ぐために奔走していた1か月ほどの期間のことを言っているのかと思っていました。 

しかし、今回のエピソードを読むと、「悟と過ごした時間」とは、中学1年の夏まで毎日病室に通い続けて、悟・悟母と一緒に過ごしていた時間も含まれているみたいですね(約一年半ぐらいの期間)。

本編だけ読むと雛月と悟が共に過ごしていた期間は1か月ぐらいだと思ったので、救い上げてくれた恩人とはいえ雛月にとって悟は思ったほど大事な存在でもなかったのかな? という印象を受けたのですが・・・今回のエピソードを読むと、再会シーンの印象がまた少し変わりましたね。

今回描かれていたのは、雛月が中学1年の夏までのエピソードで、多少雛月とヒロミとの関係も描かれるのかなと思ったのですが、今回もヒロミはほとんどセリフもなくて印象が薄かったですね。 

この後続く外伝では雛月とヒロミのエピソードも出てくるのではないかと思うのですが・・・。

悟にとって愛梨が重要な相手だったように、それと同じくらい雛月にとってヒロミが大切な相手になるエピソードを読んでみたいですね。(今のところヒロミの印象が薄すぎるのですが・・・)。

 

 

実の母親に虐待され続けて育った雛月が、毒母の存在を乗り越え、自身が「母親」になるのは、かなりハードルが高そうだな、と思うのですが・・・

雛月が「母親」になる未来にたどり着くために、悟母が果たした役割も大きかったんでしょうね。 

悟母は雛月にとって「自分もなりたい母親像」のロールモデルになっただろうし、悟・悟母を「家族」のように想って過ごした期間は、一人ぼっちでいることしか想像できなかった雛月にとって、「自分が母親になる」「自分の家族を持つ」未来へ向かうための原点になったのではないか・・・、と思いますね。

眠り続ける悟のそばにいる限り、「前に踏み出せない」雛月でしたから、病室に通う日々はいつか終わらせなければならなかった。 
しかし、病室に通い続けた期間は、毒母に虐待され続けていた一人ぼっちの雛月が「明るい未来」に向かうための準備期間として、なくてはならない大切な時間でもあった・・・のかなと思いました。 
今回のエピソードは雛月が悟・悟母の元で育てなおされ、「巣立ち」の時を迎えた姿を描いたストーリー・・・、だったのかなと思いました(「雛」だけに「巣立ち」的な?)

結局、雛月にとって「心の穴を埋める」ということは、結婚して子供を産み自分が「母親になる」ことだったんでしょうね。

 

 悟と雛月の関係

 

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悟と雛月の関係が何だったのか? 色々な解釈ができてなかなか面白いですね。

悟と雛月は性格が「似た者同士」で、「誕生日も同じ」なので、いわゆる「魂の双子」(もう一人の自分)みたいな関係のような気がします(メタ的な解釈ですが)。

悟がリバイバルで過去に戻って雛月を救済することが、=悟自身を救済することにもなっているので、「悟=雛月(=過去の自分)」のような関係性だったのかなと思いました。 
雰囲気的には、何となく「兄妹」のような感じがしますね。


解釈は人によって違うんでしょうけど、自分の場合は、悟も雛月もどちらもお互いに対して「恋愛感情」のようなものは無かった気がしますね。
主人公とヒロインの関係というと、大抵マンガでも映画でも「恋愛関係」と相場が決まっているものですが、二人の場合は「魂の双子」のような感じがして、珍しいというかユニークな関係だと思いました(見当外れな解釈かもしれないので、自分の場合はそう思ったということですが)。
悟と雛月の人生はあちこちでリンクしているようなので、ある意味恋愛関係よりも深く密接な繋がり(双子の兄妹のような繋がり)があるような感じがしました。

 

 

*****

 

ところで、今回の外伝第一話のサブタイトルは【雛月加代】になっていました。
次回以降は、毎回違うキャラクターを主役にしてサイドストーリーが描かれていくことになるんでしょうかね。

私としては外伝はこのまま雛月加代を主人公にして(雛月を中心にして)、「雛月が母親になるまで」を描いてほしいとか思うんですけど、どうなるんでしょうかね。

事件も解決したし、八代との決着もついたし、この後外伝ではサスペンスというより「人間ドラマ」的なエピソードが綴られる展開になるんでしょうか。

何かしらサプライズ的な予想外の展開とかもあったらいいなと思いますが、

外伝はまだしばらく続くようで、今後も楽しみです。

 

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